たおやめぶり


三島と太宰。

2013年06月16日 10:03

私は、三島由紀夫と太宰治は両方とも好きなんですが、両者のファン層は一致しないことが意外と多いですね。

個人的には「近親憎悪」的なものだと思っています。

多くの病跡学の専門家が指摘しているように、太宰は「自己愛的傾向」が強い人物でしたし、三島由紀夫も片口安史博士のロールシャッハテストプロトコルにも表れているように、「同性愛傾向」だけでなく、「自己愛傾向」も強い人でした。

太宰は、自分の弱さや自己愛を隠そうとせず、露骨なまでに作品で表現しましたが、三島は、激しい武道鍛錬による肉体強化や、豪華絢爛たる文飾を通じて、自己のか弱さ、繊細さ、ナルシシズムを隠そうとしました。換言すれば、三島文学は華麗な鎧のような構築物であるとも評せましょう。

日本の一部では、三島氏を過剰に賛美する傾向がありますが、伊藤静雄、サイデンステッカー、吉田健一、淀川長治、松本清張等、著名な詩人・批評家・作家の中でも、三島作品(とりわけ晩年もの)や行動に対し、批判的な人が多かったことも銘記されるべきでしょう。

なお、誤解を避けるために申しますが、私自身は三島氏を高く評価しており、とりわけ「春の雪」と「近代能楽集」を愛読しています。

三島氏の自殺に際して、もっとも、適切なコメントを寄せたと思われる武田泰淳氏の文章をいかに引用いたします。出典は「三島由紀夫氏の死ののちに」(『評論集 滅亡について 他三十編』武田泰淳著。川西政明編 岩波文庫 1992年(2012年第六刷)197頁以下でございます。)。

「あなたの宣言と、あなたの決意にもかかわらず、あなたは一人の敵(男)をも殺すことなく死んでゆきました。」(上記201頁)

「自己肯定を求めすぎた結果、自己破壊のみが『救い』だと、思い定めたのでしょうか。」(同203頁)

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